
さて前回は妊娠成立のプロセスについて解説いたしました。
これらのプロセスのいずれに問題があっても妊娠が成立しません。
そのため「どうして赤ちゃんができないの?」と考える時は、妊娠のプロセスのどこに問題があるのかを考えていく必要があります。
前回まとめた妊娠のプロセスは
このプロセスで妊娠が成立することを示しました。
それでは、それぞれのプロセスにどんな問題があるのかを探っていきましょう。

いわゆる排卵障害により妊娠が成立しない場合があります。
基礎体温をつけている方は、2相性であれば排卵があるとまずは判断できます。
ただ注意しなくてはならないのは、基礎体温が2相性でも排卵がない場合もあります。

排卵がある場合でも、低温期が極端に長い場合は排卵が遅れていると考えられます。
そのような状態を遅延性排卵と呼びます。
妊娠が成立しないわけではないのですが、妊娠確率は少し低くなります。

■排卵とは?
脳の一部である視床下部と下垂体が協調して働き、卵子の成熟と卵子が飛び出る命令を卵巣に対して周期的に出すことで成り立っています。
・視床下部って何?
脳の中心に近いところにあり、体温調節や食べ物の消化機能、睡眠、性機能をコントロールしているところ。
視床下部からの刺激で視床下部の下に存在する下垂体が「性腺刺激ホルモン」を出し排卵をコントロールしています。
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過激なダイエットや、ストレス、極度のやせなどは、
この視床下部や下垂体の機能に影響を及ぼし排卵障害を招きます。 |

【下垂体に関係のある排卵障害】
「高プロラクチン血症」
下垂体から出るプロラクチンというホルモンの値が高くなる症状
・プロラクチンとは?
産後に乳汁の分泌をうながすために大量に分泌されるホルモン
妊娠中でなくてもプロラクチンが高い方がいます。このホルモンが高いと排卵が障害されます。
【比較的よくある排卵障害】
「多のう胞性卵巣」
卵巣の「皮」が堅くなってしまい、卵子が卵巣から飛び出せず、卵胞が小さいまま鈴なりになって卵巣に存在している状態を指します。
卵巣から出るホルモンも、下垂体から出るホルモンもバランスを崩し月経周期が乱れます。人によっては男性ホルモンが高くなり「多毛」「にきび」「肥満」を来す場合もあります。
【稀な排卵障害】
卵巣の手術や癌などの化学療法、あるいは免疫的な理由で卵巣の卵子がなくなってしまい排卵しなくなる場合もあります。

卵子は卵巣から飛び出し卵管に吸い上げられます。
■卵管の役割
「手のひら」のようになっている卵管の先端(卵管采)は、常に卵巣の表面をなでるような動きをしています。そして排卵された卵子を吸い上げるのです。
また、卵管は受精の場であるとともに、常にくねくねと動くことにより受精卵を子宮に輸送する役目も持っています。
そのため、以下の場合には妊娠が成立しません。
◆卵管采が他の臓器と引っ付いている
◆卵管に炎症が起きて卵管が詰まっている
また、子宮外妊娠などによって両方の卵管が切除されている場合も妊娠が成立しません。

【クラミジア感染症】
性行為を介して移るいわゆるSTD(sexually transmitted diseases: 性行為感染症)
近年では若年層を中心に感染例が急増しています。
全く無症状な場合も多くあります。
クラミジアは子宮頸管と呼ばれる子宮の入り口で感染し、無症状のまま卵管に炎症を起こしています。
そして
卵管の閉塞、
卵管采の炎症による破壊、
卵管の癒着による受精卵の輸送障害を起こし得ます。
【子宮内膜症】
子宮をうちばりしている「子宮内膜」が何らかの原因で直腸表面や、卵巣、卵管などの骨盤内の臓器にくっついてしまう病気です。
月経痛や性交時痛などを引き起こします。
子宮内膜は卵巣から出るホルモンの作用をうけ、月経の時に出血しはがれ落ちます。
同様に、骨盤内の子宮内膜症病変も月経時には出血を起こします。そのため、月経痛が起きます。
月経の度ごとにお腹の中で出血していると炎症を起こし、卵管の閉塞や癒着の原因となります。
・チョコレート嚢腫とは?
卵巣に子宮内膜症が袋を作った場合「チョコレート嚢腫」と呼ばれる良性の腫瘍となる場合があります。
チョコレート嚢腫の中には月経の時に出血した血液がたまって古くなり、ちょうどチョコレートのような色をしているため、このような名前がついています。
子宮内膜症も近年若い人の間で増えてきています。

不妊症の場合、男性が原因となっている率が約30〜40%といわれています。
2つのパターンで考えていきましょう。
◆卵管(受精する場)に達する精子がない
◆精子が少ないため受精が起こらない
まず、精液中に精子が少ない場合や運動していない場合があります。
精子が少なくなる原因は様々ですが、その多くが原因不明であるといわれています。
【精子が少なくなる例】
・おたふくかぜにかかったために睾丸に炎症を起こし精子が作られなくなる
・小さいころに受けた手術が原因で精子の通り道がふさがれ精液中の精子が少なくなる
精子数や精子の運動が正常でも受精の場に達する精子の数が少なくなる場合があります。
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精子が子宮頚管を通過できない、
あるいは子宮頸管内で運動できなくなる |
精子は膣内に射精された後、子宮頚管と呼ばれる子宮の入り口を通過して卵管まで泳いでいきます。
子宮頚管は普段は粘液が栓をした形になっていますが、排卵のときは、エストロゲンの作用により、精子が通過しやすい透明でさらさらした粘液に変化します。
ところが、精子と頚管粘液が相性が悪いと、精子が頸管を通過できず卵管まで精子が十分に達しない場合があります。
特に女性側に「抗精子抗体」と呼ばれる精子に結合する物質が産生されている場合、子宮頚管粘液の中で精子の運動が阻害され、子宮頚管を精子が通過できなくなります。

受精卵移動についての問題点は
で示しています。
ここでは、子宮の中に移動した受精卵が子宮内膜に着床できない場合について考えてみましょう。
【妊娠成立まで】
約1週間かけて子宮内に移動した受精卵は準備の整った子宮内膜に着床して妊娠が成立します。その際、子宮内膜が受精卵を受け入れる状態にするホルモンが「プロゲステロンホルモン」です。
【妊娠不成立の原因】
プロゲステロンホルモンが十分に分泌されていない=子宮内膜の準備が整わない
プロゲステロンホルモンは体温を上昇させる作用があり、基礎体温の高温期を形成します。
そのため、基礎体温である程度プロゲステロンホルモンの分泌の程度を予測できます。
高温期が10日以上あれば大丈夫ですが、高温期が10日以下の場合、プロゲステロンの分泌が十分でない場合が考えられます。正確な診断には高温期中期の採血が必要です。
【その他の原因】
着床する部分の「形」に異常があり着床しない
・子宮内膜からきのこ状に組織が突出する子宮内膜ポリープ
・子宮内膜の形を変形させる子宮筋腫など
子宮筋腫のなかでも、特に着床する子宮内膜に近い部分に存在する「粘膜下筋腫」では、不妊の原因になったり、妊娠が成立しても流産する「不育症」の原因になったりします。
10日以上あれば大丈夫ですが、高温期が10日以下の場合、プロゲステロンの分泌が十分でない場合が考えられます。正確な診断には高温期中期の採血が必要です。
4つのプロセスに分け、赤ちゃんができない原因を大まかにみていきました。
基礎体温からでも排卵の有無やその時期、プロゲステロンの分泌について有用な情報を得ることができます。
もちろん産婦人科で検査しないとわからない原因もあります。
いずれにせよ、基礎体温は非常に有効な検査ですので、多少辛くとも、あるいはつけられない日があっても是非記録を続けてください。継続は力なりです。
次回は今回の不妊症の原因を踏まえまして、産婦人科にいく前に自分でできる基礎体温を利用した妊娠方法についてみていきましょう。
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北摂総合病院 産婦人科医長
中村 嘉宏先生
平成6年大阪市立大学卒業。医学博士。
大阪市立大学附属病院、住友病院勤務を経て
平成18年より北摂総合病院産婦人科医長。
大阪医科大学非常勤講師、愛媛大学非常勤講師。
生殖医療指導医。日本産婦人科学会認定医 |